エンプティ エン エターニティ

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22分56秒の五重力奏 ~ LUNA SEA 『THE ONE -crash to create-』 ~

 

2012年3月21日、LUNA SEAが12年振りのCDシングル『THE ONE -crash to create-』をリリースした。2007年の一夜限りの再結成東京ドームライブを契機に徐々に本格再結成の気運が高まり、2010年にはバンドとして初のWORLD TOURを行うなど完全に「REBOOT=再起動」に舵を切ったLUNA SEA。本格的な活動再開後の2011年、音源として久しぶりに届けられたのは、メジャー1stアルバムのセルフカバーとなる『LUNA SEA』だった。また、その発売の直前には東日本大震災が起こり、急遽被災地支援を目的とした配信シングル『PROMISE』がリリースされた。迅速な配信チャリティシングルのリリースから半年後には、さいたまスーパーアリーナで震災復興支援ライブも開催した。そうした震災の影響がバンドの活動スタンスにも反映された2011年を経て迎えた2012年。INORAN原曲の煌びやかな『PROMISE』の次に届けられた新曲は、22分超にもなる大作だった。再開後のセルフカバーアルバムと配信シングルという流れからして、これまでのバンドキャリアでは例のないリリース形態が続き、その次の一手はどうなるのかとファンもワクワクしていただろう。だが、まさかこうした長編シングルが来るとは誰も予想だにしていなかったのではないだろうか。私自身、通常のシングルか純然たる新作アルバムのリリースしか想定していなかったので「22分を超えるシングル」というニュースを聞いたときはいい意味でまた裏切ってくれたなと感じた。シングルでも、ミニアルバムでも、アルバムでもない、22分超の大作シングル。今回のリリースの特異さは曲の長さだけではなかった。新たなアーティスト写真なし。新曲のプロモーションビデオなし。メンバーによる音楽番組の出演なし。タイアップもなし。目立ったプロモーションとしては、公式ウェブサイトでのリリース日までのカウンダウン、映画館での視聴会の開催、その模様の動画サイトでの生放送、本誌ROCKIN'ON JAPANによるメンバー全員インタビューなどであった。テレビ、ライブ、ネットを含めてメンバーが生で演奏することは一切なくリリースされた今回の新曲。このようなオープンなようでクローズドなプロモーション展開からは、これまでバンドを支えてきたファン、そして純然たる音楽やロックの醍醐味を求めるリスナーだけが振り向けばいいとでも言いたげな挑戦的な姿勢が伺える。また、22分という大作がぶつぎりで安易にプロモーション利用されることをよしとしないバンドとしての音楽に対するひたむきな姿勢を象徴しているともいえる。このバンドがこうした姿勢をぶちかますのは何も今に始まったことではない。インディーズ時代に始まった黒服をドレスコードとした「黒服限定GIG」。シングルのタイアップ全盛時代に、メジャーデビューから数年間ノンタイアップを貫き通しながらもシングルやアルバムはチャートの上位にランクイン。その他にも東京ビッグサイト駐車場を利用した10万人ライブなど、常にファンの期待を上回り、音楽シーン全体にアンチテーゼを突きつけるような挑戦的なことに次々と取り組んできたのがLUNA SEAというバンドだった。今回のリリースはまさに、そんなあまのじゃくなLUNA SEAらしい、「単なるロックバンドとは違う」「単なる再結成とは違う」という姿勢を全面に打ち出した新曲とプロモーション展開だろう。

 

 本誌2012年5月号のインタビューによれば、直接震災をテーマにした楽曲や歌詞ではないようだが、私が初めてこの新曲を聴いたとき、震災から1年ということも影響してか歌詞も震災を意識して書かれたのかなという印象をもった。あの日から音楽も含めたすべての芸術は意識的にしろ無意識にしろ、「震災後」という目線で送り手によって作られ、また受け手も多かれ少なかれそういう視点で創作物に触れることが避けられなくなったように思う。そうした中で、この曲の歌詞や展開は、これまで支えてきたファンにとってはバンドの歴史を感じさせ、一般のリスナーには幻想的なLUNA SEA像を思い起こさせ、震災を経た世界に対しては安らぎやこれからの願いを投げかけるような内容になっていると私は思う。どこか不穏で歪なイントロから一気に広大な大地が浮かんでくるような序盤は、J原曲の『Time Has Come』や『INTO THE SUN』のじわじわと脈打つ高揚を髣髴とさせる雰囲気。「Oh 降りしきる光」という歌詞とサウンドの絡み合いが、新たな物語の幕開けを華々しく告げるようだ。そうした光溢れる展開から一転し、「Moonlight 託して...」というRYUICHIの伸びやかなハイトーンボイスが響き渡る部分では、『MOON』や『GENESIS OF MIND ~夢の彼方へ~』のようなこのバンドの持ち味である壮大で深遠な世界観が存分に発揮されている。そこから先は、深い深海を漂っているようにも、宇宙空間に投げ出されてしまったようにも思える仄暗い浮遊感に満ちた展開。「君が見つけた僕は あの日の夜の風に」という憂いを帯びた歌詞で歌われる中盤からは、バンドの結成やファンとの出逢い、迷い苦しみながらも一歩ずつ一段ずつ駆け抜けてきた日々の混沌を表現しているようで、なんとも感慨深い気分にさせられる。そうした仄暗く混沌に満ちた中盤からラストにかけては、再び第一楽章の高鳴りが響き始める。ラストの「切り裂け翼よ 果てなき空」と歌われる部分は、合唱曲のようなポジティブさと誰もが口ずさめるようなキャッチーさに溢れている。過去のアルバムラスト曲として生み出された『UP TO YOU』や『Crazy About You』といった普遍的な愛や喜びを描いた名曲の系譜に連なるエピローグといえるだろう。 

 

 「この大地を脈打つような高鳴る雰囲気はJだな」とか、「この鬱屈とした雰囲気はINORANだな」とインタビューを読む前からおぼろげに予想していた通り、この新曲には原曲の欠片を持ち寄ったSUGIZO・J・INORANという弦楽器隊3人の個性がふんだんにつまっている。終幕直前の2000年にリリースされたアルバム『LUNACY』では各曲に原曲者の志向が鮮明に反映され、その後にリリースされたシングル『LOVE SONG』に収録された3曲ではさらにその姿勢が顕著となっていた。それから12年を経てリリースされた今回のシングルCDは、原曲者の志向をただ尊重しているだけではないと感じる。原曲者各人の多様なバックボーンから生まれる志向を限りなく尊重・強調することが、自ずと絶対的なLUNA SEAらしさにつながる。そう5人全員が、阿吽の呼吸で確信しながら鳴らしているという気概が音から迸っている気がするのだ。目まぐるしく移り変わる各章ごとに原曲者1人1人の鮮明なイメージが打ち出され、それでいてバンドサウンドのぶつかり合いがヒリヒリとしすぎることも、よそよそしく距離感を保ちすぎることもなく、狂気と調和という相反する要素が螺旋を描くように続いていく。この新曲は、「LUNA SEAってこういうバンドだよな」という、ファンや一般リスナーの期待に十二分に応える内容だ。ロック、ポップ、ゴシック、ニュー・ウェーヴ、ラウド、オルタナティブ、パンク、ガレージなど、なんでもありな「ロック」という音楽の持つ醍醐味をまるごと組み合わせて体現するような幅広い楽曲を生み出してきたバンドらしい、ゴチャゴチャしているけれど不思議と統一感のある構成。それを22分超の時の中にしっかりとまとめあげている。2ちゃんねるLUNA SEA関連のスレッドを見ていると、原曲の核を持ち寄った3人の個性が鮮明に出ている分、「長い1曲というよりも数曲のぶつぎりを合わせただけ」とか「無理して1曲にまとめなくてもミニアルバムでよかったのでは?」という声もあった。そうした声が出るのもよくわかるし、私もこの曲に対してそうした印象を全く持っていないといえば嘘になる。だが、何よりも5人が12年ぶりのCDシングルに込めたかった想いは、そうした様々な疑問も含めてファンやリスナーに強烈かつ多様な感情や思考をもたらすことだったのではないだろうか。「今の音楽シーンにおいてロックに何ができるのか?ロックの持ち味を最大限表現するためにはどうすればいいのか?」「LUNA SEAの新曲として今の自分たちに何ができるのか?何を掻き鳴らしていくべきなのか?」ということを純粋に突き詰めた答えがこの22分という大作につながったのだと思う。これまで支えきたファンにとってはLUNA SEAというバンドの理想を追求した結晶であり、これからLUNA SEAに触れるリスナーにとってはこのバンドの醍醐味をまとめたバイブルといえる曲だろう。この曲はこのバンドの新たなスタートを象徴しつつ、これまでの過程を描き、今後のバンドヒストリーさえも予告しているような、一筋縄でいかないこのバンドのストイックな過剰さが整然とつめ込まれた新たな代表曲だと思う。

 

THE ONE ? crash to create ?(CD)

THE ONE ? crash to create ?(CD)